Snowflakes

お茶会日記

ひとひらの雪は手にのると、水になって消えてしまう。はかないけれどその美しさは格別です。
ささやかに燃え尽きるようないのちの灯火、そんな大切なお茶の時間を過ごしていきたいと思っています。
The snow on the palm disappears immediately after becoming water.Although it is ephemeral, its beauty is amazing.
I hope to spend hours of such precious Chanoyu, as a light of life as burned out in modest way.

Tasmania: Alice's Wonderland #3

オーストラリアはタスマニアでの「不思議の国のアリス」がテーマのお茶会。今回で完結です。

 

亭主: 黒田宗雪

半東: 鴻池朋子

水屋: 東海林裕子

 

正客: Danielle 

次客: Dianne

連客: Jennyfer、Jenny、Gillian、Shirley、Elizabeth

詰め:村井まや子

 

茶箱は丈夫な鎌倉彫のやつ持って行こうかなぁと思ったのですが、綺麗サビの方が良かろうと思って塗りにしたところ、日本に着いたらフタの横部分が割れてしまっていて若干ショック。まあ、トランクではなく機動性重視でリュックのバックパッカースタイルで行ったのが敗因ですかね。山にも持って行くので、満員電車の100kg圧にも耐えるパナソニックレッツノート並の耐久性が欲しいところ。フタも棗やら茶碗も載るので、塗りや蒔絵は向いてないと思うんですよね。桐、杉、桑の木地はシンプルで良いなぁ。

 

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話が逸れました。

 

「雪」のお点前は、お盆が必要ないこと、茶碗も棗も仕覆に入っているところが海外のお点前ではシンプルで華やかで良いんじゃないかなぁ、と個人的に思っています。私の先生は、2碗点てられるので「和敬」も良いんじゃないかとアドバイスくださいました。

 

箱にセットした主茶碗は、鎌倉の後藤慶大さん作の竹の節で作られた茶碗。軽くて割れなくて私は気に入っているのですが、私の先生にお見せしたところ「竹でできたお茶碗なんてありえない」

 

(๑ↀᆺↀ๑)

 

なのでもっぱら鎌倉彫の箱とセットで使っているのですが、今回万が一道中で割れると困るので、後藤さんのお茶碗にしました。正面もわかりやすいです。

 

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一碗を点てたところでさっそく正客のDanielle からの質問。

「なぜ正客だけ特別な茶碗で飲めるのか」

 

そうだよなー

特に今回は茶碗をお客様分パッキングするわけにもいかなかったので、各々「不思議の国のアリスのテーマに合うものをお持ち寄り」というポトラック方式にしたこともあり、正客の特別感は際立っておりました。

 

「正客はゲストの代表」ということは、冒頭に伝えてはいたけれど、本来お茶席の中ではみな平等というポリシーとは反していますよね。濃茶では「一碗を共にする」ということで担保されてるわけですが、薄茶ではそうもいかない。私の先生は社中が集まる初釜では相客すべてにいろいろ趣向を凝らした茶碗でもてなされていて、やはり回し飲む濃茶はともかく、薄茶は亭主側がひとりひとり気を遣わなくてはダメだなぁ、とあらためて思いました。

 

あと、衝撃だった質問は「男性は茶道をやらないのか」

 

そうですよねー

裏千家のお家元や大宗匠はそれは海外でのデモンストレーションを盛んにやられていますが、それを見る人はほんの一部。

ほとんどの「お茶」のイメージはキモノ姿の女性もしくは芸妓さんがお茶を点てている姿だと思います。

 

本来、茶道は男性のみ行うもので、女性が増えたのは日清日露戦争後に未亡人の身が立つように、政府が各家元に女性が茶道教授になることを認めさせたからだと聞きます。

 

きっかけはそうだとしても、確かに現在茶道を嗜む男性は圧倒的に少ない。私のまわりでもデザイナー、建築関係とある程度美意識の高い男性に限られます。

 

政財界の要人が競って茶道具を集めていた時代があったとは夢のよう。

さきほどご紹介した「和敬点」のお点前も、海軍のために淡々斎がご考案されたものだと聞きます。

 

現在の茶道に女性が多い理由は説明できますが、なぜ男性がやらなくなったのかは私にもわからない、としか答えられませんでした。非常に残念なことだと思います。禅が根本にあり、建築、書、歌、絵、花、香、食、陶芸、着物と全ての日本文化を学ぶことのできるお茶。本当にもったいないなぁ。こういう象徴性の極めて高い芸術表現は男性にぴったりなのに。

 

そして、今回「不思議の国のアリス」をテーマに行ったお茶会は、実は「各人の物語を針と糸を使ってテーブルランナーを制作する」という極めて女性的なプロジェクトの展示会のデモンストレーションとして開かれたものでした。

 

お軸は、窓に書かれた鴻池朋子さんによる「鳥」。

鳥は天と地を行き来する天使のような存在で、そして針と糸という道具も布の表と裏を行き来するとても風変わりなメディアであると。

 

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以下は、この「鳥」の「お軸」を描いた理由について、鴻池さんが英語で用意していたスピーチの内容です。

 

Needles, thread, and cloth are indeed strange media.

Sewing is clearly different from drawing something on paper. Drawings are made by working a pencil or brush on the surface of a piece of paper and leave a mark only on the surface of that paper. In the case of a table runner, the needle pierces the surface of the cloth and is pulled through the back, leaving a loop of thread. The needle then passes through the cloth again and returns to the front. It is as if these tools are teaching us that the world, unlike a piece of paper, has a front, middle, back, and depth. The thread marks the course taken by the needle in the form of a stitch. But, if the thread is cut with scissors, the thread easily slides out of the cloth like a snake, and the trace disappears as if it had never been there. It seems to me that these characteristics of the media used for table runners are also important.

Tomoko Konoike

 

針、糸、布は実に奇妙なメディアです。

裁縫は紙の上に何かを描くこととは明らかに異なります。 絵画は、紙の表面に鉛筆または刷毛を使用し、その紙の表面にのみ跡を残すことによって行われます。 テーブルランナーの場合、針は布の表面を突き刺し、引っ張られ、裏には糸のループが残ります。 針は再び布を通り、表に戻ります。 それは、これらの道具が、紙とは違って、世界が表、中、裏、深さを持っていることを教えているかのようです。 糸は、針によって捉えられたコースをステッチの形で残します。 しかし、糸がはさみで切断されると、糸は蛇のように布から滑り落ちやすくなり、まるでそこにいなかったかのように跡が消えます。 テーブルランナーに使用されるメディアのこれらの特性も、重要であると私には思われます。

鴻池朋子

 

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上の秋田在住のアーティスト、保坂剛志さんのテーブルランナーの作品は、実は裏です。
「裏がまた面白い」と鴻池さんは言ってました。
 
表と裏を自由に行き来する。
 
井上靖が利休について書いた『本覺坊遺文』という小説に、利休がいる2畳の茶室の中にひっきりなしに武人たちが入っていくのを弟子の本覺坊が目撃する場面があります。あんな大人数が狭い茶室の中に入りきれるはずがない・・・あれは死んでいった、もしくはこれから死にいく武人たちなのではあるまいか・・・
 
お茶という装置は「異界」に入っていくためのひとつのメディアだと思います。
女性は主に現実に生きているので、茶室の話題がついダイエットや噂話ばかりになってしまう傾向がありますが(笑)、私はある意味夢見がちでもあるので、茶室の中では現実とは違った世界を現出させたいと願っています。
 
それではまた。
 
このお茶会の経緯はこちらで。